V 新潟ふるさと学「良寛講座」
〜人物を題材にした学習プログラムの例〜

1 講座開設の意図

 多様な学習二一ズヘの対応が求められている中にあって、新潟県の自然、文化、物産お
よぴ新潟県に深くかかわりのある人物等に対する関心が高まってきている。このため、地
域においては高度かつ専門的な内容の講座開設が強く要請されている。そこで、県では、
いきいき県民カレッジの特色ある講座として直接モデル事業を実施し、新潟ふるさと学習
に関する学習機会を県民に提供するとともに、学習プログラムの開発や情報提供を通じて
市町村等への支援を行うこととした。本講座は、新潟県に関する人物、自然、文化、物産
等の中から、年度ごとにテーマを設定し、専門的な講座として開設したものであるc
 当県には、多くの先覚者、偉人が生まれている。これらの人々は、郷土のみならず日本
国内や国際社会の中でそれぞれの分野において重要な役割を果たし、その発展に貢献し
てきた。私たちは、郷土の生んだ先覚者や偉人の生い立ちや人となり、考え方、業績など
を学ぷことにより、先人たちの努力とその偉大な精神にふれたり、自分自身の生き方を改
めて見つめ直したりすことができると考える。そして、郷土への理解を深めたり、郷土への
愛着心を高めたりすることも期待できるのではないかと考える。平成5年度は「良寛」を題
材に取り上げた。
 県内の各地域には、多くの隠れた先覚者や偉人が存在していると考えられる。そのよう
な人物を発掘し、題材として取り上げ、学習プログラムを構成し、住民に提供する中で、郷
土への理解を深めたり、郷土への愛着心を高めたりするような「新潟ふるさと学習」の講座
を充実してほしいと願っている。

2 学習プログラム開発の視点
(1) 人物を題材として取り上げる観点や人物を題材にした学習プログラムの構成の例と
  しては、次の2点が考えられる。
  @ 複数の人物について、歴史的な出来事、分野、テーマなどの観点から取り上げる
   やり方
     例えば 歴代藩主を訪ねて、新潟の文人たち、戊辰戦争とかかわった越後人等
  A 一人の人物について、その生涯、作品、生き方などの観点から取り上げるやり方
 私たちは、先覚者や偉人たちなどから、彼等がいかにいきいきと生き抜き、また強く正し
い信念を持ち、それを貫いていったかを学ぶことが多い。彼等の生い立ち、人となり、考え
方、業績などから深い感銘を受けるのである。それゆえ、人物を取り上げた学習プログラ
ムは、一人の人物や複数の人物について継統的に掘り下げ、その人物像や生き方を浮
かぴ上がらせるよう構成されるものではないだろうか。そして、その学習プログラムを通
して、学習者自身が題材とかかわりながらその人物の生き方を学んでいくものでもあると
考える。
 今回は、Aのやり方で、学習プログラムを構成することにした。
(2) 一人の人物を題材として取り上げるやり方
    一人の人物を題材にした学習プログラムの構成例として、次の3点が考えられる。
  @ その人物の生涯について、幼少年期、青年期、壮年期など各期ごとに追いながら
   構成していくやり方
  A 業績や作品、思想などの観点から構成していくやり方
  B その人物とかかわりあった人を一緒に構成していくやり方
   @は、その人物の出生から晩年までを各期ごとに、その人がどのように成長し、どの
  ような時期にどのような人とかかわり合い、どのようなことを考え、どのような生き方
  をしていったか追うことを通して、その人の人物像や人となりを考察していくやり方で
  ある。
   Aは、その人物の作品や業績、思想など代表的なものを取り上げ、それらの成立の
  背景や過程、他への影響などを見ていく中で、その人の人物像や人となりを考察してい
  くやり方である。
   Bはその人物の周辺から、その人物像に追っていくやり方である。その人物がどのよ
  うな人々とかかわりあい、影響を受けたり、逆に影響を与えたりしたかなどについて追
  っていく。そして、かかわりのあった人たちは彼等をどのように見ていたのかについて
  も追っていく。
(3) 「良寛」を題材にして
  良寛は江戸時代の中期出雲崎に生まれた。18歳で尼瀬の光照寺玄乗破了のもとに
 入門し、その後国仙和尚に師事し、岡山の倉敷にある円通寺で修行し、得度した。国仙
 和尚が亡くなった後、諸国行脚の旅に出た。その後、越後に戻り、分水町の五合庵や乙
 子神社脇の草庵で過ごし、一生涯寺も持たず、書、詩、歌の勉強に努めた。彼の作品
 は、「良寛調」と呼ばれる独自の作風で広く知られるところとなり、当時の様々な文化人
 との交流も行われた。さらに、彼の清らかで美しく、誠実味のある人間性は多くの人に
 親しまれ、尊敬された。良寛は新潟県を代表する人物でもあり、全国的にもよく知られ、
 良寛を顕彰する人たちも多い。
  「良寛」を題材にした学習プログラムの構成として次の3つが考えられる。
 @ 「良寛の生涯を追って」というやり方
   良寛の生涯を幼少年時代から順に追っていく。幼少年時代の話題として出生や両
  親、家庭の様子そして逸話、青年時代の話題としては名主の時の様子や出家の動
  機など、各時期ごとに良寛自身のことや環境にもふれながら、良寛の人物像に迫っ
  ていく。
 A 「良寛の作品を追って」というやり方
   良寛には、書、詩、歌について作品が多い。この作品を観賞するとともに、その作
  品の成り立ちの背景や周りへの影響などを通しながら、良寛の人物像に追っていく。
 B 「良寛とかかわりのあった人々を追って」というやり方
   良寛もさまざまな人々とかかわりを持っている。ときには、良寛の人生を変えるよう
  な出会いもある。良寛の家族、知友などの人々を追い、彼等が良寛とどのように交
  流しあい、相互に影響しあったのかを見ていく中で、良寛の人物像を浮かぴあがらせ
  ていく。

3 学習プログラム例
 ○ @、A、Bの観点からそれぞれ「良寛講座」の学習プログラム例を構成してみた。
 ○ 7回シリーズで構成した。うち一回は、現地学習とし、良寛ゆかりの地を訪ね、良
  寛に関する旧跡、遺品などを見学したり、遺墨を鑑賞したりするとともに、現地の良
  寛研究家の話を聞く活動も取り入れてみた。
 ○ 各回ごとに独立した内容として取り上げてあるが、7回が連続するように構成してあ
  る。
 ○ @が良寛に関する概論に近いものになっている。A、Bは@で取り上げた内容を
  個別にさらに深めるような形になっている。
 ○ Aについては、平成5年度に実施したものをもとに加筆修正をしてプログラムを構成
  してみた。
   @とBについては、プログラムを新たに構成してみた。この構成に当たっては、生涯
  学習双書『良寛のこころ』(新潟県教育委員会、昭和58年2月発行)を参考にすること
  が多かった。
   また、AとBのプログラムについては、良寛研究に長年取り組んでおられる県立新潟
  女子短期大学講師の谷川敏朗先生の御教示を受けた。
 ○ 講座のテキストを用意した。そこには、講義の骨子だけでなく、良寛の略年表、良寛
  の系図、良寛ゆかりの地を掲載した。